考えてみると、「妊婦」になってからずっと、
「これでいいのかな」「次は何をするのかな」「みんなはどうしているのかな」
…と、どこか”焦り”を感じながら暮らしてきたように思います。
そもそも、どんどん大きくなるお腹・変わり続ける自分の体、勤め仕事のない「産休」のリズムにもろくに慣れられないまま
初めての育児生活が始まったのでした。
育児日記や写真をみて、「こうだったっけ?」と思うほどに、産直後のことは記憶にありません。毎日がいっぱいいっぱいでした。
無我夢中で眠い目をこすりながら「百日戦争」をやり過ごし……、産後半年あたりでしょうか。
体が順調に回復するにつれ、余裕ができてきたのか、わたしの“焦り”は行動として表れるようになってきました。
苦手な家事・育児のほか、育児書を読む(湿疹・病気・発達について先回りして読み漁り、余計に不安になっていました)、「子育て広場」へ通わなくては、ママ友を作らなくては、あれもこれも買わなくちゃ。
職場復帰や将来のことを考えるうち資格の勉強を始める、などなど……。
いま振り返ると、もっとゆったりと過ごしてもよかったろうに、と思います。
心身を休め、子どもを見守り、歌ったり日向ぼっこをしたりして過ごす、それだけでも。
授乳におむつ替え、沐浴、予防接種など「しなくてはならない」ことをしていれば、本当は十分だったのかもしれません。
勢い任せに詰め込んだ予定がたたってか、息子が1歳を迎える頃、わたしは突発性難聴になりました。
ある夜、左耳に水が入ったようなぼうっと詰まる感覚があり、朝起きると聞こえなくなっていました。眩暈がひどく、息子を夫にまかせ、千鳥足で耳鼻科へ通いました。
幸い治療が早く運もよく聴力は回復しましたが、こりごりする出来事でした。
その頃です。
インターネット上で、浜文子さんの詩作品「抱きなさい 子を」に巡りあいました。
育児ブログやウェブ掲示板などでも紹介されているので、ご覧になったことのある方もいらっしゃるのではと思います。
抱きしめなさい
子を
育児書を閉じ
子育てセミナーを欠席し
という言葉で始まるこの詩は、わが子を想うあまり(あるいは責任感や外部からの重圧に耐えかねて)、いろいろな場所へ連れて行き、与え、教え、ふれさせ、世話をし、一方で節約して貯金して、情報収集して……、と、つい焦ってしまう新米ママに、
たった今、この一緒の時間を、「誰にも遠慮せず」何よりも大切にしようね、していいんだよ、
と語りかけてきてくれます。
やがて母の手が
子の涙を拭(ふ)いてやれない
日が訪れる
3歳を迎えた息子は時折、少しこわばった表情で保育園から帰ってきます。
「何かあったの?」と話をするうち、お友だちとおもちゃの取り合いになったこと、年上のおにいちゃんがちょっとだけこわいこと、だいすきな先生が今日はいなかった……などなど、悔しい、悲しい、さびしい、こわかったと、時に泣きながら、一生懸命教えてくれます。
いつもそばにいてあげられるわけではない、いつも涙をみせてくれるわけではない。
だんだん離れていくのだと思うと、こちらのほうが泣けてきますね。
きっと来る
その日
子が涙を拭(ぬぐ)う手に
柔らかな記憶の手が重なるように
そんなときには思いきり甘やかします。
「赤ちゃん抱き」のような形で膝にのせて(もう殆どはみ出してしまいます)、話が終わるまで、よしよし、と頭や頬を撫でます。
すると気が済むのか、われに返って照れるのか、急に立ち上がり好きなヒーローのポーズをキメ始めたり、今度はがんばった話や、楽しかった話を教えてくれたりします。
記憶には残らないかもしれませんが、こんなつみ重ねが何かを残してくれたら、と思います。
これからも、何度も何度も、わが子を抱きしめたいです。
「やがて別れる者として」、「もう何もしてやれない日のために」……。
この「抱きなさい 子を」は、『お母さんと呼ばれるあなたへ』(浜文子/立風書房)という書籍に収録されています。
「抱きなさい 子を」のほかにもあたたかな詩、エッセイが日常使いの言葉で書かれています。
タイトル通り、ママたちへの強く優しいメッセージでいっぱいです。
エッセイの方は、もしかすると、好みが分かれるかもしれません。
しっかりとした信念に満ち満ちていますので、私自身、本音を言えば「ここまでの母親像は追えない……」と感じる部分もあります。
ただ、「育児」に関する本は多かれ少なかれ、みなそうだと考えています。
読みたいときに読みたいところを読んで、気持ちが癒やされたり、立ち止まって泣けたり、ほんの少しでも前向きになれたりしたのなら、それで十分ではないでしょうか。
全72ページの読みやすい本です。
育児がしんどい、気持ちが焦る、誰かに声をかけてもらいたい。そんなときにひらいてほしい1冊です。
ご興味を持たれましたら、ぜひ、お手にとってみてくださいね。
ママ、生まれる前から大好きだよ!-【電子書籍】 |